あばよ20代(入山 頌)
来年、30歳になる。
てやんでえ、くそったれ20代。おとといきやがれ。二度と顔みせんじゃねえぞ!
やっと20代が終わる。いいことなんか一つもなかった。
18の頃、映画観て、喫茶店入って、なんか雑貨屋さんとか見て回って、自分だけが完璧なデートだと思っていたあの日、別れ際の札幌駅で絞り出すように「テェ……ツナイデモ……イイデスカ……」といった俺を怪訝に見つめながら「……どうしたんですか急に……」といわれた失恋初体験。
相手にしてみれば迷惑なことこの上ない。帰りの汽車でオエッ、オエッ、と泣いていると、小さい子どもを連れたお母さんが席を譲ってくれたのを思い出す。世界は優しかった。俺が素直じゃないだけ。
自分に自信が持てない。あれから10年以上たつが、何も変われなかった。
人にばかにされながら時間だけが過ぎていき、大学のキャリサポ職員が嫌いすぎて就活は早々に放棄し、俺は理論派のかっちょええ人類学者になるんじゃいと息巻いて入った大学院の博士課程に落ち、フリーターになった。
周りは当然社会人になっており、20代前半の一般人たちによるキャリアステップええじゃないかを遠巻きに見る俺。
おいおいちょっと待ってくれよ。さすがになんかあるだろう。いい思い出。
アパートの近所にあった夢工場ってお店。めちゃくちゃポップな看板でなんの工場かと思って入ったら中古のエロビデオ屋だった。
子どもの頃はどうだったかな……。
小学校の遠足、お弁当の時間、「つぶれたパン!」といいながら、コッペパンに玉子をぎゅうぎゅうに詰めて小判みたいになったやつを水戸黄門みたいに俺に見せてくれたクラスメイトのS君、元気かな。
あれ、めちゃくちゃ面白かったな。お笑い第七世代なんかよりぜんぜん面白かった。
幼稚園の頃なんか俺、超モテてたからね。同じめだか組の女の子の家とか遊びに行っちゃってたんだから。
あさがお組にも俺の名前は知れ渡っていたと思うよ。なにせ、超モテてたからな。
小学生の頃なんか、みんな俺のこと下の名前で呼んでくれたしね。おじいちゃんがつけてくれた大切な名前なんだから。
小五くらいから、なんかいじめられだして、そっからはなんかもうなんかうまくいえないけど止まらなかったね。ノン・ストップ生きづらい。
給食の時間、イジられてるのがなんか面白くなくてヘンな感じでキレちゃってすごい変な空気になったんだから。
俺なんて最低の人間なんだから。
生意気なガキだったからな。カミサマがなんかリモコンで運命をちょいといじったんだろう。お前この野郎、反省しろっつって。
高校の頃はどうだったかな……。男子校だったよ。雨の日は運動部が校内の廊下で朝練(ランニング)するんだけど、柔道部の日は学校揺れてたね。
インキャな自分を変えたくて、やめときゃいいのに生徒会長選に立候補とかしちゃったよ。ダダすべりしたね。落ちたよもちろん。
ある日過呼吸になって、学校の階段が動悸で登れなくて座りこんじゃって、お医者さん行って、コントールでパッパラパーになって、授業中急に泣き出したりしちゃったりなんかして(たしか化学)。
なにもかもリセットしたくて、俺のことを誰も知らないところに行きたくて、あと普通に第一志望だった大学に堕ちたけど浪人だるくて、北海道の短大に行った。
そして冒頭に戻る。結局、同じことを繰り返すことしかできなかった。
来年30代になる今、月収平均13万のくせに家賃6万5千のマンションに住みながら、こうやってブログ書いてる。
身の丈に合ってない住まいなのはよくわかってるが、友達はそんなこと抜きに「めっちゃいい部屋じゃん!」と言ってくれた。
案外今幸せかもな。
あばよ20代。
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