『草の響き』

 現在公開中の映画『草の響き』、原作者の佐藤泰志は41歳で亡くなるまでの数年間国分寺の日吉町に住んでいたそうです。国立駅まで歩いて15分ぐらいでしょうか。ひょっとしたら国立の公民館まで来たことが、わいがやのコーヒーを飲んだことがあったかもしれません。


 『草の響き』の主人公は、精神的な危機を乗り越える治療法としてランニングを続けます。それは佐藤自身の経験に基づいているそうですが、僕は40歳を過ぎたころからランニングを始めました。当初の目的はメタボ対策でした。でも実際にはメンタルな安定を図るためにずっと続けてきて、今に至ります。現政権の大好きな「自助」の最たるものだと思います。ただただ独りで走るのですから。ランニングをする主人公に関わり始める人が現れて物語が進んでいく件の小説・映画と違い、何が起こるということもありません。それでも、ランニングをしてこなかったら一体今頃どうなっていたかを想像すると、少し怖くなります。結局、毎日毎日走らざるを得なかったのだと思います。今もそれは変わりません。


 辛いことがどんどんのしかかってきた時に、精神だけに負担を抱え込ませないで、身体への負荷に形を変えてみるという仕組みなのでしょう。心は苦しい思いを重ねていっても、強くなるとは限りません。むしろ、どんどん傷ついて弱くなっていくかもしれない。身体は鍛えると、不思議なことに、強くなります。ランニングを始めた頃は、まさかフルマラソンに出られるほどになるとは思いませんでした。今ではすっかりスピードも落ちてしまい、とてもレースに出る気にはなれません。それでも、毎日走らないわけにはいかない。


 夏場と違って涼しくなり、ランニングには心地の良い季節になってきました。辛くて逃げ場がないと感じていたら、試しに走ってみてはどうでしょうか。少しは気持ちが軽くなるかもしれません。この齢になると、体重はなかなか減らなくなってきましたが。